今回はIATF:4.3.2の顧客固有要求事項の規格解釈、構築ポイントについて解説いたします。顧客固有要求事項を理解することは、IATFを運用する上でとても重要な内容です。
自動車産業顧客と取引する上で、この言葉をきちんと理解していないと何をやっていいかわからないといった状態にもなりえます。顧客固有要求事項をどのように抽出し、それを社内にどのように展開するのかが構築のポイントです。
知識・経験を活かし、品質マネジメントシステムの規格を幅広い方々に理解いただき、各規格の普及のお手伝いができればという思いで立ち上げました!難解な内容も、知識と経験でわかりやすく解説していきますので、これからもよろしくお願いします!あくまでも個人の見解(公式に認められたものではない)となりますので、ご理解いただき是非参考にしていただければ幸いです★
条項 | 題目 | ISO9001 | IATF |
第4章 | 組織の状況 | 〇 | 〇 |
第5章 | リーダーシップ | 〇 | 〇 |
第6章 | 計画 | 〇 | 〇 |
第7章 | 支援 | 〇 | 〇 |
第8章 | 運用 | 〇 | 〇 |
第9章 | パフォーマンス評価 | 〇 | 〇 |
第10章 | 改善 | 〇 | 〇 |
条項 | 題目 | ISO9001 | IATF |
4.1 | 組織及びその状況の理解 | ○ | ○ |
4.2 | 利害関係者のニーズ及び期待の理解 | ○ | ○ |
4.3 | 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定 | ○ | ○ |
4.3.1 | 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定-補足 | ○ | |
4.3.2 | 顧客固有要求事項 | ○ | |
4.4(4.4.1) | 品質マネジメントシステム及びそのプロセス | ○ | ○ |
4.4.1.1 | 製品及びプロセスの適合 | ○ | |
4.4.1.2 | 製品安全 | ○ | |
4.4.2 | 題目なし(文書管理要求) | ○ | ○ |
目次
IATF:4.3.2の顧客固有要求事項の規格解釈
この要求事項の意図は、顧客固有要求事項を品質マネジメントシステムの運用する中できちんと抽出し、それを社内および必要に応じて仕入先に展開することで、顧客固有要求事項をサプライチェーンを通じてきちんと守る仕組みを構築することを求めています。
まず大事なことは、4.3.2の顧客固有要求事項(以下CSRs)の意味をきちんと理解すること。
自動車産業顧客である自動車会社または車載メーカ(Tire1、Tire2など)は、取引開始時に以下のような資料を渡されていることが多いと思います。
②品質保証協定書
③製品要求仕様書
④仕入先品質マニュアル
etc・・・
特にこの4つの資料がとても重要です。
また、これらは契約上重要な資料になるので、確認後にサインして送付することを求められることが殆どだと思います。
さらに重要なのが、④の仕入先品質マニュアル(以下SQM)に大事な「顧客固有要求事項」が書かれているので、次に詳しく解説します。
【重要】仕入先品質マニュアル(SQM)
みなさんの会社でサプライヤー品質マニュアル(Supplier Quality Manual: SQM)を受け取った場合、中身の内容をきちんと確認する仕組みがありますか?
多くの自動車顧客や車載メーカーのSQMの内容は、IATFの規格に基づき作成されていることが殆どです。
IATFを皆さんの会社で運用しようとしている場合は、その品質マネジメントシステムの中で運用できる(カバーできる)内容は「顧客要求事項」に当たります。
しかしそのSQMの内容には、IATFの運用だけではカバーできない顧客特有の要求事項(顧客固有要求事項)が含まれています。例えば、以下のような記載は、顧客固有要求事項に該当します。
②品質関連文書は、20年保管すること
これらの記載が顧客固有要求事項となり、IATFの要求事項以上の管理を求めている内容となります。
SQMをきちんと読み解き、顧客固有要求事項を抽出し、しっかりと社内展開(製品設計~出荷までのプロセス)することができていないと、審査の際に重大な不適合になる恐れがあります。
なぜなら、IATF:4.3.2の要求事項の中には以下のような大事な内容があります。
つまり、SQMの個別要求事項を適用範囲(運用の中に取り込む仕組み)に含めていないと、要求事項通りできていないと判断され、要求事項を満たしていない=不適合と判断されることになってしまいます。
顧客固有要求事項の抽出と運用方法については、審査の際もしっかり確認されるので構築方法を後述します。
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【重要】プロジェクト個別要求
製品開発段階(製品実現プロセス)を進める序盤に、みなさんの会社と取引するために自動車産業顧客は「取引基本契約書」「品質保証協定書」「製品要求仕様書」などが渡されていると思います。
ここにも顧客の要求事項が書かれています。
取引契約書や品質保証協定書、製品要求仕様書もCSRsの一部なのできちんと抽出し、社内対応方法を明確にしておかないと審査の際も対応できていないと判断され不適合になる可能性が高いです。
顧客固有要求事項の抽出方法がポイント!
CSRs(顧客固有要求事項)は前述の通り、自動車産業顧客から渡されるSQMに多くが書かれています。
IATFの内容に基づくよう多くの自動車産業顧客が作成してくれているので、SQMに書かれているIATF以外の要求事項を抽出し、マトリクス表を作成することがちょーーーー重要です。
抽出方法については下記を見てください。
②要求事項の内、CSRsの部分を抽出
③CSRsに対してどの部門が対応するのか決定する
④対応方法を決定する
⑤①~④について、全ての要求条項に対して行う
これらが全て対応出来たら顧客固有要求事項マトリク表は完成です。
この構築の難しい所は、顧客固有要求事項を抽出するためには、IATFの全要求項をきちんと解している人が行わないと、顧客固有要求事項の漏れが発生してしまう点です。
その為、多くの会社はIATF・ISO事務局の事務局員が担当することが多いです。事務局は、品質マネジメントシステム運用のプロなので、規格要求事項を理解している担当者が多いからです。
どの部門がCSRsマトリクス表を作成するのかは、構築段階できちんと担当を決めておくとよいでしょう。
顧客固有要求事項に対応できない内容は顧客へ報告!
顧客から渡される前述の資料は、顧客から渡されたらASAP(できるだけ早く)で確認することが大事です。
すぐに顧客固有要求事項を抽出して、自社で対応できるのかを判断し、対応できない場合は顧客へ対応不可の連絡をきちんと入れることが構築ポイントです。
対応できないことをまとめた「対応不可リスト」という形で社内でまとめて顧客に必ず報告するようにしてください。
②対応不可があれば、リスト化して顧客へ提出
③顧客が再度対応願いを出した場合は、顧客と打ち合わせ
④顧客と自社で合意ができたら対応不可の項目は、CSRsマトリクス表に合意内容を記入
これで顧客固有要求事項は抽出完了です。
顧客固有要求事項マトリクス表を作成して社内に展開する
上記の図のように自動車産業顧客と合意されたCSRsは、遠隔地支援事業所および自社工場に展開します。
遠隔地支援事業所とは、自社工場には無い別の部門が存在する拠点を指します。
例えば、営業部門と購買部門のみ本社にある場合は、遠隔地支援事業所になり、それらの拠点にもCSRsマトリクス表を送付し、製品実現段階から確実にCSRsが品質マネジメントシステムの中に取り込まれる仕組みを作ることが重要です。
また必要に応じて仕入先(サプライヤー)へもCSRsを展開する必要があります。
それらは顧客の仕入先マニュアル(SQM)にきちんと書かれているので、展開するようにしましょう。
【補足】顧客からSQMを渡されていない場合は?
自動車産業顧客からは、取引契約書、品質保証協定書、製品仕様書は渡されることが殆どですが、仕入先品質マニュアル(SQM)は渡されないことがあります。
その場合は、顧客に「SQMありますか?」とわざわざ問い合わせする必要はありません。
この場合は、IATFに従い要求事項通りの品質マネジメントシステムを運用していればOKです。
IATF:4.3.2の顧客固有要求事項の内容はどこに記載すればいい?
IATF:4.3.2の顧客固有要求事項についての記載は、品質マニュアルの要求事項と共に、自社の運用方法を記載することで仕組みの対応はできていると判断されます。
ただし、仕組みが構築されていてもきちんとCSRsマトリクス表が品質マネジメントシステムに適用されていなければならないので、きちんと準備しましょう。
またIATFの第一段階審査前に、CSRsの提示が求められるので必ず準備しましょう。
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IATF:4.3.2に関するFAQ
よくある質問をFAQ形式で3つご紹介致します!もっと詳しく質問したい場合は、是非メールコンサルティングサービスをご活用くださいね!
顧客固有要求事項(CSRs)は、自動車産業の顧客が特定のプロジェクトや取引に対して提示する、独自の品質要件や基準です。これには、特殊特性の管理、文書の保管期間、製造工程の能力要件などが含まれます。IATFでは、これらの要求事項を品質マネジメントシステムに組み込み、運用することが求められています。
まず、顧客から提供された仕入先品質マニュアル(SQM)や契約書からCSRsを抽出し、それを対応部門にマトリクス表として展開します。さらに、必要に応じてサプライヤーにも情報を共有し、製品設計から出荷までのプロセスに反映させることで、顧客固有要求事項を確実に守る仕組みを構築します。
顧客固有要求事項に対応できない場合は、迅速に顧客にその旨を報告し、代替案や対応不可リストを提出します。顧客と合意が得られたら、CSRsマトリクス表にその内容を記載し、適切に運用します。
IATF:4.3.2の顧客固有要求事項:まとめ
IATF:4.3.2の顧客固有要求事項の規格解釈および構築ポイントは如何でしたでしょうか?顧客固有要求事項の抽出及び社内および仕入先への展開、顧客への対応不可の場合の連絡はとても重要です。
このCSRsがきちんと抽出できていない、社内に展開されていない、守られていない場合不適合になる可能性が非常に高いです。
また、内部監査を実施する際もCSRsを理解していないと内部監査ができないので、内部監査員はきちんとCSRsを理解しておく必要があります。
最後のワンポイントアドバイスとして、顧客固有要求事項の抽出はかなり大変です。私が経験した企業でも審査の直前まで要求事項に抜けが無いか必死に確認しました。
審査直前は人海戦術になるので、要求事項を熟知したメンバーをそろえておくことが秘訣です!
IATF:4.3.2の顧客固有要求事項は非常に重要な要求事項なので、きちんと社内構築を行うようにしましょう!
それではまた!