トヨタ生産方式(TPS)は、世界中の企業が採用する効率的な生産システムのモデルです。その成功の背後には、ムダを排除し、改善を続ける数多くの独自の用語と概念があります。本記事では、TPSの基本理念を理解し、生産現場で役立つ具体的な用語をまとめた「トヨタ用語辞典」となっています。生産管理や改善活動に携わる方はもちろん、トヨタの哲学に興味がある方にとっても、知識を深めることができれば幸いです。
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トヨタ用語をなぜ理解する必要があるのか
トヨタ用語を理解することは、効率的で高品質な生産プロセスを実現するために重要です。トヨタ生産方式(TPS)は、ムダを排除し、品質を高め、作業の流れを最適化することで知られていますが、その根底には多くの独自の用語や概念が存在します。
これらの用語を理解することで、次のようなメリットが得られます。
- 一貫した改善活動の推進
TPSの根幹である「改善」を実践するためには、各用語が示す具体的な手法や考え方を知ることが不可欠です。「かんばん」や「ジャストインタイム」などの用語は、効率化やムダの削減に直結しており、これを理解することで現場の改善活動をスムーズに進めることができます。
- 共通言語によるコミュニケーションの円滑化
生産現場では、多くのチームが連携して作業を行います。共通のトヨタ用語を使うことで、作業者や管理者、エンジニア間のコミュニケーションが円滑になり、意思疎通のミスや誤解を防ぎます。
- 生産効率と品質の向上
トヨタ用語を理解し実践することで、全体の効率が向上し、品質の安定化が図られます。「自働化」や「標準作業」などの概念は、生産ラインのスムーズな運営と、作業者の負担軽減、そして品質保証に直結します。
- 国際的な競争力の強化
TPSは世界中の企業が導入しているため、トヨタ用語の理解は国際的な生産管理や品質改善においても役立ちます。これにより、トヨタの成功事例を自社に応用し、国際市場での競争力を高めることができます。
以上の理由から、トヨタ用語を理解することは、TPSの効果を最大限に引き出し、持続的な改善と競争力強化に貢献します。
トヨタ用語辞典
あ行
用語 |
意味 |
アイソゼロ |
品質管理の一環で、不良品や異常が「ゼロ」である状態を目指す活動。品質の徹底した管理を象徴する概念。 |
追い越し生産 |
生産ラインが計画よりも早く進むこと。ジャストインタイムを崩す要因となり、在庫のムダを引き起こすため、改善の対象となる。 |
後工程引き取り |
次の工程が前の工程から必要な分だけを引き取る方式。ジャストインタイム生産を支える重要な概念。 |
後補充(生産) |
製品や部品が消費された後で補充する方式。過剰在庫を防ぎ、必要なものを必要な時に生産することを目指す。 |
アンドン |
生産ラインに設置された信号装置で、異常が発生した際にラインを停止させ、管理者やオペレーターに異常を知らせるシステム。 |
1個流し(生産) |
1つずつ順番に製品を生産する方式。大量生産に比べてリードタイムを短縮し、不良品の発生を最小限に抑える。 |
内段取り |
生産設備の段取り替え作業を行う間、設備を停止させる必要がある作業のこと。これを短縮することで効率化を図る。 |
オートメーション |
作業の自動化や設備の自働化を進めることで、生産性を向上させ、人的エラーを減らすことを目指す。 |
か行
用語 |
意味 |
AB制御 |
A・B二つの工程や生産方法を組み合わせて効率的な生産を行う方式。 |
改善 |
常に業務プロセスの改善を行い、効率化やコスト削減を図る。これはトヨタ生産方式の核心となる概念。 |
可動率 |
機械や設備が動作可能な時間の割合。高い可動率を維持することが生産効率を向上させる。 |
稼動率 |
稼働している時間の割合。生産能力の最適化やムダの削減に関わる重要な指標。 |
かんばん(看板) |
ジャストインタイム生産を支える部品管理システム。部品や製品の引き取りや供給を指示するカードのこと。
※かんばんは色々種類があるので下記別表参照 |
QC工程表 |
品質管理(QC)のための工程表。各工程における品質の維持・改善を目指す。
※IATF16949では「コントロールプラン」といいます。 |
欠品(けっぴん) |
必要な部品や材料が不足している状態。生産が遅れる原因となるため、厳格に管理される。 |
号口(ごうぐち) |
トヨタ生産方式で特定の部品や製品の生産や発注を管理するための単位。製品や部品がラインに投入されるタイミングを指示する際に使われる。 |
工数(こうすう) |
製品の完成までにかかる作業時間や労力の単位。工数削減は、効率化やコスト削減の目標となる。 |
工程の流れ化 |
各工程がスムーズに連携し、製品が途切れなく流れる生産方式。 |
工程能力 |
各生産工程が持つ生産能力を指し、生産ライン全体のボトルネックを特定し、効率的なライン設計を行うために必要。 |
工程別能力表 |
各工程の生産能力を一覧表にして、ラインバランスの調整や負荷の最適化を図る。 |
5回のなぜ |
問題の根本原因を見つけ出すために「なぜ」を5回繰り返して問う手法。
※5Whyやなぜなぜ分析ともいいます。 |
混載運搬 |
異なる部品や製品を一度に運搬する方式。効率的な物流を目指す。 |
補足:色々な「かんばん」紹介
用語 |
意味 |
仕掛けかんばん |
生産途中での部品や製品の移動や保管に用いるかんばん。 |
工程内かんばん |
同じ工程内での部品や材料の移動や使用を管理するためのかんばん。 |
信号かんばん |
特定のタイミングで部品供給を指示するためのかんばん。次の工程に引き渡すタイミングを知らせる。 |
引き取りかんばん |
後工程から前工程に部品や材料を引き取る際に使用するかんばん。 |
運搬かんばん |
部品や材料を運搬する際に使用するかんばん。 |
外注かんばん |
外部のサプライヤーに部品を供給する際に使用するかんばん。 |
臨時かんばん |
通常の生産計画外で必要な部品や材料を供給するために使用するかんばん。 |
かんばんサイクル |
かんばんが工場内を循環する流れ。必要なタイミングで必要な部品が供給されるように管理される。 |
さ行
用語 |
意味 |
サイクルタイム |
1つの製品が工程を完了するまでに要する時間。工程の効率を測るための指標。 |
作業順序 |
作業を行う際の順序や手順を指示する。標準作業の一部。 |
作業バランス |
各工程における作業時間のバランスを最適化すること。これにより、生産ラインの停滞を防ぎ、効率的な流れを実現する。 |
作業標準 |
作業者が統一された手順で作業を行うための基準書。品質の安定と効率化を図る。 |
三現主義(さんげんしゅぎ) |
「現場」「現物」「現実」の3つを尊重する考え方。現場で起きている現実の状況を正しく理解し、問題解決に取り組むトヨタの基本姿勢。 |
サンキュー運動 |
不具合や異常が発生した際に、ラインを停止して問題を解決する活動のこと。異常が発生した場合、素早く「サンキュー(39秒以内)」で対応することを目指す。 |
シングル段取り |
段取り替え作業を1分以内で行うことを目標にした改善活動。生産ラインの効率を高めるために重要。 |
仕事 |
生産プロセスで各作業者が行う具体的な作業。 |
実行タクトタイム |
製品が生産ラインを通過する間隔を制御する時間。需要に応じた生産スピードを維持する。 |
自働化 |
機械が異常を検知して自動的に停止する機能を持つこと。人が介入せずに品質を保つための仕組み。 |
ジャストインタイム |
必要なものを、必要な時に、必要なだけ生産する方式。過剰生産や在庫のムダを排除する。 |
順序表 |
生産順序や作業手順を示す表。 |
順引き |
生産の順序に従って部品や材料を取り出し、組み立てる方式。 |
少人化 |
少人数で効率的に生産を行う方法。 |
省人化 |
生産工程の自動化や効率化により、人手を減らすこと。 |
省力化 |
作業の効率化や自動化により、作業者の負担を軽減すること。 |
生産管理板 |
生産の進捗や問題点を可視化するためのボード。管理者が生産状況を把握しやすくする。 |
(生産)指示ビラ |
生産指示を伝えるための紙媒体や掲示物。 |
生産のリードタイム |
製品が注文されてから納品されるまでの全体の時間。効率的な生産計画を立てるために重要な指標。 |
製造技術 |
製品の生産に関連する技術やノウハウ。工程の改善や効率化に向けた技術的アプローチ。 |
外段取り |
生産設備の段取り替え作業を行う際に、設備を停止せずに行える作業。 |
た行
用語 |
意味 |
多回運搬 |
1回で多くの部品を運搬するのではなく、頻繁に少量を運搬する方式。ジャストインタイム生産を支える運搬方法。 |
タクトタイム |
顧客の需要に応じて生産ラインがどれくらいの速さで製品を完成させるべきかを示す時間。 |
多工程持ち |
1人の作業者が複数の工程を担当すること。 |
多台持ち |
1人の作業者が複数の機械を操作すること。 |
多能工化 |
1人の作業者が複数の異なる作業やスキルを持つこと。 |
段取り替え(時間) |
設備や生産ラインの設定を次の生産品に変更する際の時間。短縮することで効率が向上。 |
中間在庫 |
工程間に存在する部品や製品の在庫。中間在庫が多いとリードタイムが長くなるため、削減が目指される。 |
直行率(ちょっこうりつ) |
生産された製品が、最初の検査で不良なく合格する割合。高い直行率を目指すことで、品質の向上とムダの削減を実現する。 |
定位置停止方式 |
生産ライン上で、異常や問題が発生した場合、機械やラインが決まった位置で停止する方式。 |
定員制ライン |
生産ラインの作業者数を一定に保つ方式。過剰な人員を避け、効率化を図る。 |
定時不定量運搬 |
決まった時間に運搬を行うが、運搬する量は変動する方式。 |
定量不定時運搬 |
決まった量の部品を運搬するが、運搬する時間は変動する方式。 |
トヨタ生産方式 |
トヨタ自動車が開発した効率的な生産システム。ジャストインタイムと自働化が基本となる。 |
な行
用語 |
意味 |
内外作比率 |
内作(社内での生産)と外作(外部委託)の割合を指す。自社での生産と外注のバランスを最適化するための重要な指標。 |
能率 |
作業の効率性を示す指標。高い能率を目指すことで、生産性が向上する。 |
乗り継ぎ運搬 |
異なる運搬手段や区間を組み合わせて、部品や材料を効率よく移動させる方法。運搬の中継点での効率化が図られる。 |
補足:「能率」は多岐にわたる!
用語 |
意味 |
真の能率 |
全体的な生産性や効率性を考慮した真の作業効率。 |
見かけの能率 |
一見すると高効率に見えるが、実際には無駄や非効率が含まれている能率。たとえば、一時的に生産速度が速くても、品質問題や過剰在庫が発生する場合は「見かけの能率」と言える。 |
全体の効率と個々の能率 |
全体の効率は、工場全体や生産ライン全体での最適化を指し、個々の能率は、個別の作業や工程の効率を示す。それぞれをバランスよく改善することが重要。 |
は行
用語 |
意味 |
ハイヤー方式 |
生産ラインの部品供給に、タクシーのように随時供給される方式。決まった時間や頻度ではなく、必要に応じて供給が行われる。 |
離れ小島 |
生産ラインから離れて存在する部品や設備。生産効率を下げる要因となるため、改善の対象になる。 |
はみだし品 |
標準的な生産計画外の製品や部品。余剰生産や不良品の可能性があり、効率化の観点から避けるべきもの。 |
標準作業 |
最も効率的で品質を維持できる作業手順を定めたもの。すべての作業者が同じ方法で作業することを促し、ばらつきを防ぐ。 |
標準作業組合せ票 |
作業の各工程や作業者の動き、使用する時間を標準化し、それを表にまとめたもの。工程間の連携を最適化するために使用される。 |
標準作業票 |
作業の標準手順をまとめた表。作業者がそれに基づいて一貫した作業を行う。 |
便乗運搬 |
他の運搬作業と同時に、追加の運搬を行うこと。効率的な運搬方法を目指す。 |
平滑化生産(へいかつかせいさん) |
生産量の変動を最小限に抑えること。安定した生産を実現するための計画手法で、需要の変動にも柔軟に対応する。 |
平準化 |
生産の変動を抑え、できるだけ均等にすること。需要に対して過不足なく対応するための調整。 |
フレキシブルライン |
複数の製品やモデルを同一のラインで生産できる柔軟な生産ラインの設計。需要変動や製品の多様化に対応するために重要。 |
ペースメーカー |
生産ラインの中で、そのライン全体のペースを決める工程や設備。ペースメーカーの効率がライン全体の効率に影響を与える。 |
ポカヨケ |
作業ミスや不良を防ぐための仕組みや装置。「人はミスをする」という前提に基づき、ミスを検知したり、発生させないようにする工夫。 |
ま行
用語 |
意味 |
見える化 |
生産現場や管理データを誰でも視覚的に理解できるようにする取り組み。異常や問題点を早期に発見し、改善活動を迅速に行うために重要。 |
水すまし |
工場内で頻繁に移動する作業者や装置を指す。無駄な移動が発生している状態を比喩的に表現する。 |
ムダ(無駄) |
トヨタ生産方式では「ムダ」とは価値を生み出さない全ての活動を指す。ムダは以下別表の7つに分類される |
ムラ(斑) |
作業のばらつきや、需要の変動によって生じる不均衡。ムラは生産効率を低下させ、ムダの発生原因となる。 |
ムリ(無理) |
過度な負荷や無理な作業を行うこと。ムリを続けると、作業者の疲労や機械の故障、品質の低下を招く。 |
目で見る管理 |
生産現場の状況を視覚的に把握できるようにする手法。ラインの稼働状況や問題点を誰でもすぐに確認できるようにするための方法。例としては、アンドンや管理ボードなどがある。 |
モノの流れ |
生産工程全体での材料や部品の流れ。効率的なモノの流れを作ることで、生産ラインの停滞を防ぎ、リードタイムを短縮できる。 |
【補足】7つの無駄
用語 |
意味 |
造りすぎのムダ |
必要以上に生産すること。 |
手待ちのムダ |
作業が滞ること。 |
運搬のムダ |
不必要な運搬や移動。 |
加工のムダ |
価値を生み出さない加工。 |
在庫のムダ |
必要以上の在庫を持つこと。 |
動作のムダ |
作業者の無駄な動き。 |
不良品のムダ、手直しのムダ |
不良品の発生やそれに伴う手直し。 |
や行
用語 |
意味 |
ヨーイ・ドン方式 |
同時にスタートを切るような生産方式や作業開始の指示を表す。計画を一斉に実行するような状況を表すが、効率化の観点からは改善の対象になることがある。 |
やり直し(再作業) |
不良品や異常品を修正するための作業。トヨタでは再作業をできるだけ減らし、初めから正しい生産を行うことが求められる。 |
4S(5S) |
作業現場を整備し、効率的で安全な作業環境を維持するための5つのステップを表す。従来は4Sだが、後に1つが追加されて5Sとなった |
【補足】4S・5Sを理解しよう!
用語 |
意味 |
整理 |
必要なものと不必要なものを分け、不必要なものを捨てる。 |
整頓 |
必要なものを使いやすく配置し、いつでも取り出せるようにする。 |
清掃 |
職場や設備を清潔に保つ。 |
清潔 |
整理、整頓、清掃を維持する。 |
躾(しつけ) |
上記の4Sを習慣化し、守り続ける文化を育てる。 |
ら行
用語 |
意味 |
ラインバランス |
生産ライン上の各工程における作業の負荷や時間を均等にすること。ラインバランスが取れていないと、特定の工程で遅延が発生し、全体の効率が低下する。 |
リーン生産方式 |
トヨタ生産方式を基盤とする生産手法で、無駄を排除し、価値を最大化することを目指す。全世界で広く採用されている。 |
ルート改善 |
生産や物流のルートを見直し、最短かつ効率的な方法を追求する改善活動。ムダな運搬や作業を削減することが目的。 |
わ行
用語 |
意味 |
ワンピースフロー |
1つの製品を一貫して流しながら作業を進める生産方式。1個流しとも呼ばれ、在庫やムダを最小化する。 |
その他用語集
その他用語集もご用意しておりますので、是非参考にしてみてくださいね!
まとめ
以上が、トヨタ生産方式における主要な用語の詳細な説明です。これらの概念や手法は、効率的な生産と品質向上を目指すだけでなく、トヨタの全体的な経営哲学にも深く根ざしています。特に「改善」や「ムダの排除」は、常に変化する市場環境に適応しながら持続的な成長を支えるための重要な要素です。
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