
IATF16949:7.5.1.1項「品質マネジメントシステムの文書類」は、品質マニュアルに最低限含めるべき5つの内容を明示した要求事項です。ISO9001でも品質マニュアルの作成は求められますが、IATF16949ではそれに加えてプロセスマップ・タートル図・顧客固有要求事項マトリクスなど、自動車業界固有の文書構成が要求されます。
品質マニュアルは審査・監査の「入口」となる文書です。
内容が不足していたり、要求事項との対応関係が不明確だったりすると、審査の前段階でつまずく原因になります。
本記事では、7.5.1.1項の要求事項の意味から、品質マニュアルに必須の5要素の詳細・ISO9001との違い・プロセス定義3点セットの作り方・内部監査対策まで、現場で「使える」情報を網羅的に解説します。

この記事を書いた人
所属:QMS認証パートナー専属コンサルタント
年齢:40代
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| 条項 | 題目 | ISO9001 | IATF |
| 第4章 | 組織の状況 | 〇 | 〇 |
| 第5章 | リーダーシップ | 〇 | 〇 |
| 第6章 | 計画 | 〇 | 〇 |
| 第7章 | 支援 | 〇 | 〇 |
| 第8章 | 運用 | 〇 | 〇 |
| 第9章 | パフォーマンス評価 | 〇 | 〇 |
| 第10章 | 改善 | 〇 | 〇 |
| 条項 | 題目 | ISO 9001 |
重要 帳票 |
IATF 16949 |
重要 帳票 |
| 7.1.1 | 一般(資源計画) | 〇 | ● | 〇 | |
| 7.1.2 | 人々 | 〇 | ● | 〇 | |
| 7.1.3 | インフラストラクチャ | 〇 | ● | 〇 | |
| 7.1.3.1 | 工場、施設及び設備の計画 | 〇 | ● | ||
| 7.1.4 | プロセスの運用に関する環境 | 〇 | ● | 〇注記 | |
| 7.1.4.1 | プロセスの運用に関する環境-補足 | 〇 | ● | ||
| 7.1.5 7.1.5.1 |
一般(監視及び測定のための資源) | 〇 | 〇 | ||
| 7.1.5.1.1 | 測定システム解析 | 〇 | ● | ||
| 7.1.5.2 | 測定のトレーサビリティ | 〇 | 〇注記 | ||
| 7.1.5.2.1 | 校正/検証の記録 | 〇 | ● | ||
| 7.1.5.3.1 | 内部試験所 | 〇 | ● | ||
| 7.1.5.3.2 | 外部試験所 | 〇 | ● | ||
| 7.1.6 | 組織の知識 | 〇 | 〇 | ||
| 7.2 | 力量 | 〇 | 〇 | ● | |
| 7.2.1 | 力量-補足 | 〇 | |||
| 7.2.2 | 力量-業務を通じた教育訓練(OJT) | 〇 | |||
| 7.2.3 | 内部監査員の力量 | 〇 | ● | ||
| 7.2.4 | 第二者監査員の力量 | 〇 | ● | ||
| 7.3 | 認識 | 〇 | 〇 | ||
| 7.3.1 | 認識-補足 | 〇 | |||
| 7.3.2 | 従業員の動機付け及びエンパワーメント | 〇 | |||
| 7.4 | コミュニケーション | 〇 | ● | 〇 | |
| 7.5.1 | 一般(文書化した情報) | 〇 | 〇 | ||
| 7.5.1.1 | 品質マネジメントシステムの文書類 | 〇 | |||
| 7.5.2 | 作成及び更新 | 〇 | 〇 | ||
| 7.5.3 7.5.3.1 7.5.3.2 |
文書化した情報の管理 | 〇 | 〇 | ||
| 7.5.3.2.1 | 記録の保管 | 〇 | |||
| 7.5.3.2.2 | 技術仕様書 | 〇 |
当サイトの情報提供スタンスについて
当サイトでは、ISO9001およびIATF16949について、規格要求の解説にとどまらず、実務でどのようにルールや記録へ落とし込むかを重視して情報を整理しています。
規格の理解とあわせて、「現状とのギャップをどう捉えるか」「どこから手を付けるべきか」といった判断に迷いやすい点を、現場目線で分かりやすく解説することを目的としています。
記事内容を自社へ当てはめる際の考え方や、判断に迷うポイントについては、別ページで整理した情報も用意しています。
この記事の目次
- 1 IATF16949:7.5.1.1項の「意図」を理解する
- 2 7.5.1.1項の要求事項の全体像
- 3 要求事項a):品質マネジメントシステムの適用範囲
- 4 要求事項b):文書化したプロセスとプロセス定義3点セット
- 5 要求事項b):品質文書体系表の整備
- 6 要求事項c):アウトソースしたプロセスの管理
- 7 要求事項d):顧客固有要求事項マトリクス表
- 8 ISO9001の品質マニュアルとIATF16949の違い
- 9 品質マニュアルの変更管理と継続的改善
- 10 内部監査・審査での確認ポイントと質問例
- 11 IATF16949:7.5.1.1に関するFAQ
- 12 まとめ:IATF16949:7.5.1.1項の品質マネジメントシステムの文書類
IATF16949:7.5.1.1項の「意図」を理解する
ISO9001では品質マネジメントシステムの文書化について一般的な要求を定めていますが、自動車産業においては顧客ごとに固有の品質要求事項(CSR)が存在し、複数の顧客・複数のプロセスが複雑に絡み合うという業界特有の事情があります。
IATF16949:7.5.1.1項が要求しているのは、そのような複雑な環境の中でも「品質マニュアルを見れば、QMS全体の設計が把握できる状態」を確保することです。
具体的には、品質マニュアルに以下の要素が揃っていることで、審査員・監査員・新任担当者・顧客が品質マニュアルを読んだ際に、「この組織はどの範囲で何を管理し、どのようなプロセスで動いており、顧客要求をどう取り込んでいるか」が一目で理解できる状態を作ることが本要求事項の目的です。
①自動車業界では複数の顧客CSRを同時に管理する必要があり、それがQMSにどう組み込まれているかを明示する必要がある
②ISO9001だけでは「プロセスの相互関係の見える化」が不十分なケースがある
③審査機関が審査前に品質マニュアルをレビューし、審査範囲を確定するため、必要情報が揃っていないと審査自体がスムーズに進まない
7.5.1.1項の要求事項の全体像
IATF16949:7.5.1.1項では、品質マニュアルに含めるべき最低限の内容として以下の5項目が規定されています。
| 要求項目 | 概要 |
|---|---|
| ①品質マネジメントシステムの適用範囲 | QMSがどの範囲に適用されるかを明記する |
| ②除外がある場合の詳細と理由 | 適用除外する項目とその正当な理由を記載する |
| ③文書化したプロセス | 確立された文書化プロセス(規定・手順等)の記載または参照 |
| ④プロセス全体がわかるプロセスマップ | QMS全体のプロセスとその相互作用を図で示す |
| ⑤顧客固有要求事項マトリクス | 全自動車産業顧客に対するCSR対応状況を示すマトリクス |
これら5つは最低限必要な内容であり、これだけでは不十分です。実務上は、ISO9001の全要求事項とIATF16949の追加要求事項の両方が網羅された品質マニュアルの構築が必要です。
要求事項a):品質マネジメントシステムの適用範囲
適用範囲に記載すべき内容
品質マニュアルの「適用範囲」セクションには、以下の内容を明記します。
| 記載項目 | 内容例 |
|---|---|
| 事業所名・拠点 | 本社工場、○○製造所等 |
| 製品・サービスの種類 | 自動車用プレス部品の製造等 |
| 適用する規格 | ISO9001:2015、IATF16949:2016 |
| 適用する顧客 | T社向け、H社向け等 |
| 除外事項 | 製品設計の除外等(理由を明記) |
適用範囲はIATF16949:4.3.1項の要求事項に基づいて決定します。一度確定した適用範囲は、組織の変化(新工場の追加・製品ラインの変更等)に応じて定期的に見直しが必要です。
製品設計の除外と正当性の証明
IATF16949では、製品設計の要求事項(8.3項)を除外する場合、正当な理由を明確に記載することが求められます。
「委託生産であるため製品設計は顧客が行う」という理由で除外するケースが最も多いですが、その正当性を証明するために以下の3つの書類が重要です。
製品設計除外の正当性を証明する3つの書類:
| 書類 | 役割 |
|---|---|
| ①顧客との契約書 | 委託生産先であることから、製品設計を除外できる根拠となる |
| ②注文書 | 契約書に基づき委託生産を行った証拠 |
| ③顧客固有要求事項マトリクス | 顧客と合意されて製品設計の要求事項が削除されている証拠 |
これら3つの書類を品質マニュアルの付属文書として参照できる状態にしておくことで、審査員からの「なぜ製品設計を除外できるのか」という質問に対して確実に回答できます。
要求事項b):文書化したプロセスとプロセス定義3点セット
IATF16949:7.5.1.1項では、品質マニュアルに「確立された文書化したプロセス」を記載すること、またはそれへの参照を含めることが求められています。
IATF16949で必須の「プロセス定義3点セット」
IATF16949の認証取得・維持において、以下の3つの書類は品質マニュアルの付表として必ず管理しなければならない文書です。審査前に審査機関へ提出することが求められます。
①タートル図(タートルチャート)

タートル図は、各プロセスを「亀の甲羅」に見立てて、プロセスのインプット・アウトプット・使用するリソース・方法・測定基準・責任者を一枚の図で表現したものです。
| タートル図の構成要素 | 内容 |
|---|---|
| インプット(左) | プロセスに入ってくる情報・材料・要求 |
| アウトプット(右) | プロセスから出ていく製品・情報・記録 |
| 人・力量(上左) | 誰が・どんなスキルで実施するか |
| 設備・インフラ(上右) | 何を使って実施するか |
| 方法・手順(下左) | どのように実施するか(規定・手順書) |
| 測定・指標(下右) | どのように評価・監視するか(KPI等) |
| プロセスの目的(中央) | プロセスが達成すべきこと |
タートル図を作成することで、プロセスの役割と境界線が明確になり、責任の所在と管理方法のブレを防止できます。特に審査員は「プロセスの責任者は誰か」「測定指標は何か」を確認するため、タートル図がきちんと整備されているかは重点確認ポイントです。
②プロセスマップ(プロセスフロー図)

プロセスマップは、QMS全体のプロセスとその相互関係を一枚の図で示したものです。個々のプロセスが他のプロセスとどう繋がっているかを俯瞰できるため、QMSの「地図」として機能します。
プロセスマップに含める主なプロセス:
| プロセス区分 | 具体的なプロセス例 |
|---|---|
| マネジメントプロセス | 経営計画、マネジメントレビュー、内部監査 |
| コアプロセス(製品実現) | 受注、設計・開発、購買、製造、検査、出荷 |
| 支援プロセス | 人材育成、設備管理、文書管理、測定管理 |
プロセスマップでは、各プロセスへのインプットとアウトプットの流れを矢印で示し、プロセス間の相互作用が視覚的に把握できるようにします。
③プロセス連関図

プロセス連関図は、各プロセスがどのプロセスからインプットを受け取り、どのプロセスへアウトプットを渡すかという関係性を一覧で整理した文書です。プロセスマップの補完的な役割を持ち、複雑なプロセス間の依存関係を明確にします。
プロセス連関図の構成例:
| プロセス名 | インプット元 | アウトプット先 | 主な帳票・記録 |
|---|---|---|---|
| 受注プロセス | 顧客(受注情報) | 設計・開発プロセス | 受注書、製品仕様確認書 |
| 設計・開発プロセス | 受注プロセス | 製造プロセス・購買プロセス | 図面、DFMEA、コントロールプラン |
| 購買プロセス | 設計・開発プロセス | 製造プロセス | 購買注文書、受入検査記録 |
| 製造プロセス | 購買プロセス | 検査プロセス | 製造日報、工程検査記録 |
要求事項b):品質文書体系表の整備
プロセスの運用ルールが記載されている規定・作業標準書・帳票なども品質文書として管理された状態でなければなりません。その管理状態の適格性を表すのが品質文書体系表です。
品質文書体系の階層構造

品質文書は一般的に以下の4階層で構成されます。
| 階層 | 文書の種類 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1層 | 品質マニュアル | QMSの方針・基本的な方針・適用範囲 |
| 第2層 | 品質規定・手順書 | 各プロセスの実施手順・ルール |
| 第3層 | 作業標準書・作業手順書 | 現場作業の具体的な手順・条件 |
| 第4層 | 帳票・記録 | 実施結果を記録する書式 |
品質文書体系表(文書台帳)の管理項目
| 管理項目 | 内容 |
|---|---|
| 文書番号・様式番号 | 社内管理番号 |
| 文書名 | 規定名・手順書名 |
| 関連するIATF/ISO条項 | どの要求事項に対応するか |
| 版数・改訂日 | 最新版の管理 |
| 作成部門・承認者 | 責任の所在 |
| 保管場所 | 物理的・電子的保管場所 |
特に重要なのは「関連するIATF/ISO条項」欄です。要求事項と対応文書が紐づいていることで、要求事項に対して漏れなく対応文書が整備されているかを確認できます。審査前にこの紐づけを確認することが、審査準備の基本作業となります。
要求事項c):アウトソースしたプロセスの管理
現代の製造業では、熱処理・表面処理・検査・物流など、多くのプロセスを外部に委託するケースがあります。IATF16949:7.5.1.1項では、アウトソースしたプロセスについても品質マニュアルに管理方法を記載することが求められています。
品質マニュアルへの記載内容
| 記載項目 | 内容 |
|---|---|
| アウトソース対象プロセスの特定 | どのプロセスを外部委託しているかを明示 |
| 管理方法・管理基準 | どのように外部委託先を評価・監視するか |
| 責任の明確化 | アウトソース先の品質に対する責任が組織にあることを明示 |
| 関連規定への参照 | 8.4.1.1項(外部から提供されるプロセス等の管理)への参照 |
アウトソースしたプロセスについては、IATF16949:8.4.1.1項(外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理)と連携して管理します。品質マニュアルでは概要を記載し、詳細な管理手順は購買管理規定・サプライヤー管理規定に委ねる形が一般的です。
アウトソースプロセスの管理における審査のポイント
審査では「アウトソース先の品質を組織がどのように保証しているか」が確認されます。以下の管理体制が整備されていることを品質マニュアルで明示してください。
- サプライヤー評価・選定プロセスの存在
- 定期的な供給者監査(第二者監査)の実施
- 契約書・購買仕様書による品質要求の伝達
- 受入検査・受入基準の設定
- アウトソース先がIATF/ISO認証を持つか否かに応じた管理レベルの差別化
要求事項d):顧客固有要求事項マトリクス表
顧客固有要求事項マトリクス表は、IATF16949の審査において100%確認される最重要文書の一つです。全ての自動車産業顧客に対して、CSRがQMSにどう組み込まれているかを示すマトリクスの作成が必須です。
顧客固有要求事項マトリクス表の役割
IATF16949の審査を受ける際、審査員は「顧客固有要求事項が組織のQMSに確実に取り込まれているか」を必ず確認します。確実に取り込まれている証拠として、以下の情報が一覧で確認できるマトリクス表が必要です。
顧客固有要求事項マトリクス表の構成:
| 顧客名 | CSR項目番号 | CSR要求内容 | 対応するIATF/ISO条項 | 対応する社内規定・帳票 | 担当部門 | 対応状況 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| T社 | SQ-001 | 工程承認手順 | 8.5.1.1 | 工程承認規定 | 品質管理部 | 対応済み |
| T社 | SQ-002 | 特殊特性の管理 | 8.3.3.3 | 特殊特性管理規定 | 品質管理部 | 対応済み |
| H社 | QSB-001 | 内部監査実施要件 | 9.2.2項 | 内部監査規定 | 品質保証部 | 対応済み |
CSRマトリクス表のポイント
「組み込まれた」ということは:
- 顧客固有要求事項が社内規定・帳票に反映されていること
- 担当部門が要求内容を理解して運用していること
- その運用状況を内部監査で定期的に確認していること
この3つの状態が揃って初めて「CSRがQMSに取り込まれた」と言えます。マトリクス表があるだけでは不十分で、実際に運用されている証拠(記録)が存在することが審査では確認されます。
CSRが変更された場合の対応
顧客がCSR(SQM等)を改訂した場合、以下のフローで対応します。
- CSR改訂内容の受領・確認(7.5.3.2.2項:技術仕様書の管理プロセスを適用)
- 変更内容の社内への影響評価
- 品質マニュアル・関連規定・帳票の更新
- マトリクス表の更新
- 関係部門への周知・教育
- 内部監査での確認
ISO9001の品質マニュアルとIATF16949の違い
ISO9001を既に取得している組織がIATF16949を取得する際、品質マニュアルにIATF固有の追加内容を組み込む必要があります。以下の比較表を参考に、自社の品質マニュアルの更新箇所を確認してください。
ISO9001 vs IATF16949品質マニュアル比較表
| 記載項目 | ISO9001 | IATF16949 |
|---|---|---|
| 品質マニュアルの形式 | 自由形式 | 自由形式(一連の文書も可) |
| QMSの適用範囲 | 〇必要 | 〇 必要(より詳細) |
| 適用除外の理由 | 〇 必要 | 〇 必要(正当性証明書類が必要) |
| 文書化したプロセスへの参照 | 〇 必要 | 〇 必要 |
| プロセスマップ | △推奨 | ◎ 必須(付表として管理) |
| タートル図 | ❌要求なし | 〇 必要(審査前に提出) |
| プロセス連関図 | ❌要求なし | 〇 必要(付表として管理) |
| 顧客固有要求事項マトリクス | ❌要求なし | ◎ 必須 |
| アウトソースプロセスの管理 | 〇 必要 | 〇 必要(より詳細) |
| 品質文書体系表 | △推奨 | ◎ 必須 |
IATF16949品質マニュアルの構成例

ISO9001の品質マニュアルをベースにIATF要求事項を追加する場合、以下の構成で各条項に対してどのように対応するかを記載するのが最も効率的です。
よくある品質マニュアル構成例
1.適用範囲
-組織概要・製品・適用拠点
- QMSの適用範囲(ISO9001 / IATF16949)
-除外事項と理由(製品設計除外の場合は正当性書類を参照)
・・・
2.引用規格
・・・
3.用語及び定義
・・・
4.組織の状況
- 4.1組織及びその状況の理解
- 4.2利害関係者のニーズ・期待
- 4.3適用範囲の決定(4.3.1補足を含む)
- 4.3.2顧客固有要求事項←IATFの追加要求
- 4.4 QMSとそのプロセス(プロセスマップ参照)
・・・
5.リーダーシップ
・・・
6.計画
・・・
7.支援
- 7.5.1.1品質マネジメントシステムの文書類←この条項
- 7.5.3.2.1記録の保管
- 7.5.3.2.2技術仕様書
8.運用
・・・
9.パフォーマンス評価
・・・
10.改善付表1:プロセスマップ
付表2:プロセス連関図(タートル図一覧)
付表3:顧客固有要求事項マトリクス表
付表4:品質文書体系表
この方法の最大のメリットは、要求事項に対してどのように組織が対応するのかが明確になり、読み手に伝わりやすく、新人教育にも活用できる点です。
品質マニュアルの変更管理と継続的改善
品質マニュアルは作成した後も、組織や外部環境の変化に応じて定期的に更新が必要です。
品質マニュアル更新が必要なトリガー
| トリガー | 対応内容 |
|---|---|
| 規格改訂(ISO/IATFの新版) | 新要求事項を品質マニュアルに反映 |
| 顧客CSRの改訂 | マトリクス表・関連記載を更新 |
| 組織変更(部門再編・新工場追加等) | 適用範囲・プロセスマップを更新 |
| アウトソース先の変更 | アウトソースプロセスの管理記載を更新 |
| 内部監査・外部審査での指摘 | 指摘内容を品質マニュアルに反映 |
| 新製品・新プロセスの追加 | プロセスマップ・プロセス連関図を更新 |
品質マニュアルの版数管理
品質マニュアルは文書管理規定(7.5.3項)に従って版数管理します。
- 改訂番号・改訂日・改訂箇所の明示
- 改訂履歴の保持
- 旧版の廃止処理(誤使用防止)
- 関係部門への最新版配布・周知
内部監査・審査での確認ポイントと質問例
7.5.1.1項は審査の最初に品質マニュアルの確認として必ずサンプリングされる条項です。品質マニュアルに不備があると、その後の審査全体に悪影響を与えます。ここが甘いと審査全体のスタートでつまずきます。以下の確認ポイントで事前に自社の状態を確認してください。
審査で指摘されやすい5つのポイント
| No. | 指摘されやすいポイント | よくある不備の状態 | 対策 |
|---|---|---|---|
| ① | 5要素のいずれかが品質マニュアルに未記載 | プロセスマップはあるが顧客固有要求事項マトリクスがない | 5要素チェックリストで網羅性を確認し、不足部分を追記する |
| ② | プロセスマップが現場の実態と乖離している | 組織変更・新プロセス追加があったが品質マニュアルが更新されていない | 組織変更・プロセス変更時の品質マニュアル更新ルールを文書管理規定に明記する |
| ③ | 顧客固有要求事項マトリクスが最新版でない | CSRが改訂されたがマトリクス表が旧版のまま | CSR改訂受領時のマトリクス更新フローを規定化する |
| ④ | 製品設計除外の正当性証明書類が揃っていない | 除外とだけ記載されており、契約書・注文書・CSRマトリクスでの裏付けがない | 除外理由を記載した上で、根拠書類を付表として参照できるようにする |
| ⑤ | タートル図・プロセス連関図が整備されていない | 「審査機関への提出が必要と知らなかった」 | 3点セットを品質マニュアルの付表として整備し、審査前提出リストに追加する |
監査で「見られる帳票・記録」一覧
| 帳票・記録 | 確認される内容 |
|---|---|
| 品質マニュアル(最新版) | 5要素の網羅性、版数管理、承認記録 |
| プロセスマップ | 現場実態との一致、最終更新日 |
| タートル図(全プロセス分) | インプット・アウトプット・責任者・KPIの記載 |
| プロセス連関図 | プロセス間の相互作用の明示 |
| 顧客固有要求事項マトリクス表 | 全顧客CSRの網羅性、最新版管理 |
| 品質文書体系表 | 要求事項と対応文書の紐づけ |
| 製品設計除外の根拠書類 | 契約書・注文書・CSRマトリクスの整合性 |
| 品質マニュアル改訂履歴 | 変更管理の実施証拠 |
IATF16949:7.5.1.1に関するFAQ
規格対応でよく聞かれる悩み
ISO9001やIATF16949、VDA6.3に取り組む中で、「審査対策として何を優先すべきか分からない」「要求事項に対する構築の考え方が整理できない」といった声は少なくありません。
また、社内にQMSを体系的に理解している担当者がいない場合や、外部コンサルの費用面で継続的な支援が難しいと感じるケースもあります。こうした悩みは、特定の企業に限らず、多くの現場で共通して見られるものとなっています。
IATF16949:7.5.1.1項では、
①QMSの適用範囲
②除外がある場合の詳細と理由
③文書化したプロセスへの参照
④プロセスマップ(プロセスの相互作用)
⑤顧客固有要求事項マトリクス
の5つが最低限必要な内容として規定されています。ただしこれらは最低限であり、実務上はISO9001とIATF16949の全要求事項に対する組織の対応方針が体系的に記載されていることが求められます。
いいえ、一連の文書で構成することも認められています。その場合、「その文書のリストを品質マニュアルとして保持すること」が要求されています。複数の文書に分散して管理する場合は、文書一覧(品質文書体系表)を整備し、品質マニュアルの冒頭から参照できる構造にしておくことが重要です。
本文に含める必要はありませんが、品質マニュアルの付表(附属文書)として参照できる状態にしておくことが求められます。審査機関への審査前提出時には、これらの文書を品質マニュアルとあわせて提出することが一般的です。本文が肥大化しないよう、付表番号で参照する形式が実務上最も使いやすい構成です。
使えません。IATF16949では、ISO9001には存在しない追加要求事項(プロセスマップの必須化・顧客固有要求事項マトリクスの必要・タートル図の整備等)があります。ISO9001の品質マニュアルをベースに、IATF16949の追加要求事項に対する組織の対応方針を各条項に追記する形でリライトすることが最も効率的なアプローチです。
はい、IATF16949の審査において顧客固有要求事項(CSR)がQMSに組み込まれているかの確認は100%行われます。マトリクス表は「CSRがどのプロセス・どの規定で対応されているか」を示す最も効果的な証拠書類です。マトリクス表がないと、審査員が個別にCSRと社内規定の対応関係を確認する作業が発生し、審査に多大な時間がかかります。事前に整備しておくことが審査をスムーズに進める鍵となります。
製品設計の除外が認められるのは、「顧客が設計責任を持ち、組織は製造のみを担当する委託生産の場合」が代表的です。ただし除外するには正当な理由を品質マニュアルに明記し、顧客との契約書・注文書・CSRマトリクスでその根拠を裏付けることが必要です。「製品設計を実施していないから除外できる」という主張だけでは審査で認められない場合があるため、書類による証拠が必須です。
規格上は見直し頻度の明示的な指定はありませんが、組織変更・プロセス変更・規格改訂・CSR改訂・審査での指摘事項の発生時には必ず更新が必要です。また、定期的なマネジメントレビュー(9.3項)のタイミングで品質マニュアルの有効性を評価し、必要に応じて改訂することが良い実務慣行です。少なくとも年1回はレビューを実施することをおすすめします。
製品の品質に直接影響を与えるプロセスをアウトソースしている場合は記載が必要です。具体的には、熱処理・表面処理・めっき・塗装・非破壊検査・試験などの製品実現プロセスが対象になります。一方、清掃・警備・食堂運営などの間接業務は通常対象外です。「そのプロセスがなければ製品の品質基準を満たすアウトプットが得られないか」を判断基準にすると整理しやすくなります。
まとめ:IATF16949:7.5.1.1項の品質マネジメントシステムの文書類
IATF16949:7.5.1.1項は、品質マニュアルに最低限含めるべき5要素を規定する条項です。この要求事項を正しく理解し実装することで、審査の「入口」となる品質マニュアルを確実に整備できます。
本要求事項のポイントを改めて整理すると以下の通りです。
- 5要素を全て品質マニュアルに含める
- 製品設計除外の場合は契約書・注文書・CSRマトリクスの3点セットで正当性を証明する
- プロセス定義3点セットを付表として整備し審査前に提出できる状態にする
- 品質文書体系表で要求事項と対応文書の紐づけを可視化し、漏れを防止する
- 顧客固有要求事項マトリクスは最新版を常に維持し、CSR改訂時は即座に更新する
- アウトソースプロセスの管理方法を品質マニュアルに明記し、8.4項と連携させる
- 品質マニュアルは定期的に見直し、組織変更・規格改訂・CSR改訂時には必ず更新する
ISO9001の品質マニュアルをベースにIATF16949の要求事項を全条項にわたって追記する形式が、最も効率的かつ審査員に伝わりやすい構成です。「要求事項に対してどのように対応するかが明確に記載された品質マニュアル」を目指して構築してください。
7.5.1.1項は審査の最初に確認される条項であり、不備があると審査全体のスタートでつまずきます。「現状の品質マニュアルをレビューしてほしい」「どこに何を追加すべきか判断できない」という場合は、メールコンサルティングで個別にご対応します。
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